saver's

守るために働く人々をサポート

VOL.17 埼玉県深谷市消防本部の「救助工作車Ⅲ型」をセイバーズがレポート!

2022年3月

『TEAM深谷消防』

共同体感覚を持とう。が合言葉

深谷市消防本部は市町村合併に伴い、深谷市・岡部町共同事務組合と寄居地区消防組合が解散し、新たに深谷市消防本部として設置された。職員数は226名(うち女性職員5名)で1本部・2消防署・6分署で構成されている。消防車両は37台(うち救急車8台)[令和4年2月1日現在]体制で平均年齢は38歳。『TEAM深谷消防』共同体感覚を持とう。を合言葉に、一人ひとりがTEAM深谷消防(深谷市消防本部)という共同体の一員であるという「共同体感覚」を持って、仲間・家族に対し胸の張れる勇気ある行動を実践している。今回は令和3年2月に納入された救助工作車をセイバーズがリポート!(カタログVOL.50掲載)

 

【どんなところ?】

埼玉県深谷市は、平成18年1月1日に「深谷市」、「岡部町」、「川本町」、「花園町」がひとつになり誕生した市だ。埼玉県北部に位置し、北は群馬県の伊勢崎市、太田市に接しており日本一暑い街として毎年ニュースに取り上げられている熊谷市が東に接している。地形の特徴として、北部は利根川系の低地、南部は秩父山地から流れ出た一級河川の荒川が扇状台地を形成する平坦な地形だ。管轄内には関越自動車道、国道17号線・バイパス、上武国道、国道140号線・バイパス、国道254号線、JR高崎線、秩父鉄道なども含まれ、東京都心方面及び上信方面への要衝となっている。
救助工作車Ⅲ型
シャーシ 日野レンジャー
全 長 8,350mm
全 幅 2,300mm
全 高 3,300mm
ホイールベース 4,000mm
最小回転半径 -
車両総重量 11,940kg
乗車定員 6名
総排気量 定格出力5.12kw
駆動形式 4×4
ウィンチ 大橋機産製
クレーン タダノ製2.9t
パワーゲート -
配備年月日 令和3年2月1日
艤装メーカー モリタ
-

署で力を入れている活動や訓練はありますか?

深谷消防署では、平成25年に総務省消防庁から無償貸与された重機を使用し、土砂災害での生き埋めを想定した救出訓練を市内の残土置き場で行っている。土砂の中に埋めた人形を要救助者に見立て、合板や杭で土留めを行う。次に土を手で掘り起こし、重機を使用して土砂を除去する訓練内容だ。緊急消防援助隊として派遣された際に、より多くの隊員が活動できるように毎年署内で重機の特別教育を実施し、操縦資格者を増やしてきた。現在(令和4年7月)までになんと40名中33名が小型建設機械の操縦資格を取得した。

▼再生を押して下さい。

※音楽が流れます。

クレーン

要求書者を救助ロープで救出するための支点活用を重量物排除より重視し、車両積載総重量内に納めるために軽量化を図った。

 全高をフラットに

全高を前部から後部まで統一した珍しい設計。収納スペースも増え、右側側面にはシャッター2枚と縦型収納、左側側面にはシャッター3枚を確保できた。

油圧救助器具

holmatro社製(オランダ)バッテリー式油圧救助器具。

バッテリー切れに備えて手動の油圧救助器具も積載している。

 

出場や補足指令により資器材を選び載せ替えるのではなく、画像検索機I型、地中音響探知機、電磁波探査装置、熱画像直視装置、夜間用暗視装置、地震警報器など、全ての高度資器材を積載し資器材の用途を活かした活動を行う。

地中音響探知機

デルサー社製LD-3。6つのセンサーで要救助者の発する声や音、振動をキャッチし位置を特定する。

 

音を聞き漏らさぬよう、通常2名体制で操作する。

▲電磁波探査装置

ライフセンサー社製。電磁波を飛ばし、要救助者の呼吸や心拍、微小な動きなどに反応、距離や位置を特定できる。20cm厚のコンクリート壁を透過し検知できる。【写真は、約2m下に要救助者がいる表示。】

▲訓練棟

新しく配属された隊員との訓練。訓練を積み重ねて、出場に備える日々。

先輩隊員の背中を追いかけ、その努力が自信となる。チーム全体で見守る『TEAM深谷消防』スピリッツが訓練からも垣間見えた。

▲高機能消防指令センター

消防本部に設置された高所監視カメラや指揮車に搭載したカメラを前方のモニターに映し出し、モニターを切替えながら市内の様子をチェックできる。近年は災害現場にタブレットを携行し、タブレットで撮影している映像をリアルタイムで共有。現場の状況把握と共有がスムーズに行える。

今までに、特に印象に残った救出活動などはありますか?

『平成30年12月に発生した、旧上武大橋橋桁落下事故です。』

埼玉県と群馬県を繋ぐ、新しい「上武大橋」が完成したことにより、1934年に建設された旧上武大橋の解体作業が行われていた。土砂運搬作業をしていた重ダンプ(積載量32t)が橋の下を通過しようとしたところ、橋桁に衝突。その衝撃で橋桁が重ダンプの運転席上に落下し、運転席の男性が閉じ込められた。と、付近で工事をしていた男性より入電があった。


落下した橋桁は利根川に架かる長さ50m、幅約3m、重量52tと巨大なものであった。橋桁の一方が重ダンプで支えられ、反対側は橋脚に僅かに架かっている程度で大変不安定な状態。警察と工事関係者を交え慎重に情報共有を行い、橋桁を固定するには100tクレーンが必要という結論が出た。だが、工事関係者によると、クレーンの手配から組立までに2~3日を要するとのことだった。


まずは橋を一時的に安定させるために重ダンプ2台の荷台部分で橋桁の下から支え、更に大型重機、中型重機のバケットを利用。橋桁に近い部分の落下防止を行った。油圧救助器具を使用し、運転席のドア周辺を破壊したところで要救助者の左半身全体を確認することができた。

要救助者は座席シートに座り、上半身が前屈し、運転席屋根部分と座席シートの間に挟まれている状態だったので、座席シートを破壊して電動ソー、油圧救助器具を使用しての拡張に移行した。


安全管理員をしていた隊員から、事故車両の右側前輪に亀裂を確認したとの報告があり、一時退避しながらの救助活動は続いた。工事関係者に橋桁の隙間に鋼材をブロック状に積み上げてもらうように依頼、橋桁の更なる安定化と補強を図り、隊員たちの安全も確保したうえで再開された。油圧救助器具を繰り返し使用することで拡張していき、要救助者の右肩付近に確認できたわずかな隙間にベルトスリングを通し、身体全体を可能な限り安静に引き出す方法で救出を完了した。


急を要する事態に備え、車体には展開扉収納と油圧ホースレスを採用。設定時間の短縮となり、早期活動開始が可能となる。また、バッテリー切れなどによる使用不能を防ぐ目的と、油圧救助器具操法などの救助操作の基準を忘れることのないよう、バックアップとして手動ポンプ、油圧ホース及び先端器具を積載している。技術が進歩しても基本を大切にしたい。

今回お話を伺ったのはこの人

三部さん

防課

三部孝幸さん

(さんべたかゆき)

消防司令補

岡田義則さん

(おかだよしのり)

消防士長

須藤剛男さん

(すどうたかお)

消防士

戸森貴大さん

(ともりたかひろ)

記事内の写真・内容は取材当時のものです。記事内の写真の無断転用を禁じます。