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VOL.20 那須地区消防組合 黒磯消防署の「救助工作車Ⅱ型」をセイバーズがレポート!

2023年1月

『情報伝達の迅速性と確実性』

那須地区消防組合は、平成27年10月1日に大田原地区消防組合と黒磯那須消防組合が統合し設立された一部事務組合で、栃木県北東部に位置する大田原市、 那須塩原市及び那須町の3市長を管轄しています。管轄人口は21万人で、北は福島県、東は茨城県に隣接し、北西部には那須連山を望み北東部の山間地域、南西部の扇状地「那須野が原」から構成されています。交通面で

 

 

【黒磯消防署ってどんなところ?】

職員53名、平均年齢35歳で指揮車1台、救助工作車Ⅱ型1台、化学車1台、ポンプ車1台、救急車2台、資機材搬送車1台、支援車1台を運用しています。「ベテランから若手までコミュニケーションが取れており、風通しのよい職場です。その人間関係の良さが現場活動における情報伝達の迅速性や確実性に繋がっていると感じます。そんな職場風土の中、若手職員も意欲的に日々訓練を重ね、多様化する災害に備えています。」と栗田消防指令補。今回はそんな黒磯消防署の納車されたばかりの救助工作車Ⅱ型をセイバーズがリポート!!

救助工作車Ⅲ型
シャーシ 日野レンジャー
全 長 8,110mm
全 幅 2,330mm
全 高 3,170mm
ホイールベース 4,000mm
車両総重量 11,740kg
乗車定員 6名
総排気量 5,120L
駆動形式 4×4
ウインチ 大橋機産(株)製
クレーン タダノ2.93t
配備年月日 令和4年12月16日
艤装メーカー 株式会社モリタ

署で力を入れている活動や訓練はありますか?

那須地区消防組合救助隊は、大田原消防署及び黒磯消防署の2署に特別救助隊が配備されており、黒磯消防署特別救助隊は総員12名の隊員から構成されています。火災対応、交通救助、特殊災害及び山岳救助隊等、多岐にわたる内容を訓練計画で定め、訓練を実施し、あらゆる災害に備えています。当組合の地域特性として那須連山及び山間地域があることから山岳事故に対応するためロープを使用した救助訓練も同じように訓練を実施しています。栃木県では6隊目となる、緊急消防援助隊、毒劇物等対応小隊に令和5年に登録するため、今回は資機材の選定もそれに沿って行いました。

車両紹介

▼ フロントデザイン

 ▼ バックデザイン

 ▼ サイドデザイン

▼【ホイールスペースを延長し、資機材収納量を増加

ホイールスペースを延長(3,790mm→4,000㎜)して資機材収納量を増加させている。

通常では排ガス浄化装置が潰してしまうスペースも損なうことなく照明器具一式を収納することができる。

▼【迅速対応を重視し選定】

大田原署救助工作車に積載しているウェーバー社のものと同様。人事異動などで車両が変わっても即時対応できるようにした。各社の資器材を使い比べ隊員の意見を尊重しての選定。

▼【スペースの有効活用】 

パンチングメタルを取付け、無駄なスペースがないように細かく考えられている。

▼【インスタントアンカー】

支点を確保できるように、インスタントアンカーを差し込みできるようにしている。

▼ 【車外、車内コーティング】

バンパー上の縞鋼板や車両両サイドの収納扉を展開したステップ上は防錆塗装だけでなく、滑り止めの効果があり、安心して乗り降りすることができる。ボディーには、アークコートとよばれるガラスコーティング剤が施工されている。

水分と反応してシリカの薄膜を形成するタイプの本物のガラスコーティング剤で硬化後は、鉛筆硬度9H以上になり、防水・防傷・防汚効果がある。

車内には二酸化チタンを塗布した。塗布表面で紫外線を吸収し内部の電子が励起されることにより活性酸素種が生成され、有機物(細菌や臭いの原因物質)を酸化・分解して除去することができる。2020年には可視光応答型光触媒による新型コロナウィルスの不活性化が確認されている。

▼【収納スペースの確保】

車内冷蔵庫と、後部座席もパンチングメタルで収納確保。

▼ 【後輪フェンダー内部スペース】

後輪フェンダー内部のスペースにも収納を設け、ワイヤーなどのかさばる汚れものも収納できるようにしている。

▼【化学剤測定器

毒物劇物等対応小隊に登録する際にも必要な化学剤測定器。S.T JAPAN INC.のLCD3.3を採用。そのほか、PM1704S、レイド8、除染剤散布器も同時購入。

▼【訓練棟】

 

▼【車庫内】

オレンジの手摺は室内訓練に耐えられる仕組みになっている。

▼【BUTZBACH社製シャッター

ドイツのブーツバッハ社製で中からも明るさ確保。

IMG_8233

▼【ロッカー

▼【事務室】

事務室は清潔に保たれていて、全体も見渡しやすい。

▼【会議室】

室内訓練でも使用できる広々とした会議室。

▶【仮眠室】
仮眠室は当番、非番と交互に1人1部屋使用。女性専用部屋も確保し、プライベートが保護されている。車庫が見渡せるトレーニングルームも仮眠室前に完備。

▶【トレーニングルーム】

仮眠室は当番、非番と交互に1人1部屋使用。女性専用部屋も確保し、プライベートが保護されている。車庫が見渡せるトレーニングルームも仮眠室前に完備。

今までに、特に印象に残った救出活動などはありますか?

『令和4年7月29日に発生した山岳救助事案です。』

 

事案の内容は60歳代の夫婦2人が17時頃入山し登山開始から間もなくして忘れ物に気づいた妻が夫と離れ、車に忘れ物を取りに戻った。しかし、山に戻ると夫の姿はなく、不安を感じた妻は警察へ通報、その後警察から消防へ捜索依頼があった案件である。

 

翌日早朝から捜索を開始することが決定。長時間の捜索やロープを使用した救助活動になることも考慮して、山間地救助隊を招集。

県内消防防災ヘリは別事案対応のため、県警ヘリにて上空から捜索し、地上隊は消防と警察が合同で3隊を編成し捜索を開始。山岳地帯は通信機器の不感地帯が多いため、数カ所に無線機やトランシーバーの中継員を配置し、指揮隊と各隊の活動状況の把握や追加情報を即時対応できるようにした。

 

入山開始から30分。一般の登山者から中身が散乱したリュックがあったとの情報が入り、リュックを確認したところ、関係者情報と一致。本人のものと確定した。有力な情報により、この捜索は早期に決着がつくと思われた。

しかし、周辺を探すも行方不明者の姿がない。

その後、行方不明者の目的地であった山小屋まで捜索するも発見には至らず、有力な情報も得られないことから登山道からそれている可能性も考慮して各隊は捜索範囲を広げたが、登山道外の捜索は足場が悪いことや野生動物に遭遇する危険も多く、隊員の体力的、精神的なストレスが大きくなり捜索は難航し、数時間が経過。

 

その中で、配置した中隊員から情報が入った。一般の登山者からの情報で、登山道から約100m下の急斜面に人が倒れているとのことだった。そこは行方不明者の妻の情報や山岳地形による人間の行動心理の予測にも当てはまらず、捜索場所優先順位としては低い場所であったため改めて捜索の難しさを感じた。

 

この事案がおきた那須岳では年間を通して多くの登山者が来るため、怪我や遭難、滑落事故など山岳事故が発生している。そんな有事に備え、当組合は山間地救助隊の配備や警察と山間部の地理調査、ロープレスキュー訓練を合同で実施。民間の方で構成された那須山岳救助隊と登山講習や登山道整備などを行っており、他機関との協力体制の強化を進めている。

 

今回お話を伺ったのはこの人

消防司令

田村 賢一さん

(たむら けんいち

消防司令

八木沢 信雄さん

(やぎさわ のぶお)

(左から順に)

消防士

安齋 陸さん

(あんざい りく

消防士長

君山 陽平さん

(きみやま ようへい

消防司令補

栗田 勝さん

(くりた まさる

消防士長

菊地 礼容さん

(きくち あやなり

消防副士長

臼井 大喜さん

(うすい たいき

消防士

渡部 歩さん

(わたべ あゆむ

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